新潮文庫09年1月刊  養老孟司 かけがえのないもの


かけがえのないもの (新潮文庫)

かけがえのないもの (新潮文庫)

問題は山本義隆の頭じゃない、私の頭の整理ですからね。あんな物理の歴史本を書いているんじゃ、山本は総括なんかしないよな。そういう気持ちもありますよ。そんなふうに思う。この私は、ひょっとすると全共闘なんですかね。
 新潮文庫 養老孟司 運のつき 74.5ページより

こちら「運のつき」の続編ではなかったですね。ある意味「運のつき」のあとには何を記しても養老のルサンチマンとしてしか読めぬ。著者ももちろんそれはわかっている、あとがきに「この本の内容は、ここ十年ほどあちこちで講演した話を集めて…」と記してあって、まあつまり、営業がんばってねというしかない。
矛盾なのかな、“脳を尺度にして考える”ことによるステレオタイプを批判しつつ“脳を尺度にして考える”ことで客観的な思考ができると、そのへん二つの「脳化」というカテゴリを分けて記しているよう。それこそ講演を聴きにくる“お客”を煙に巻いているようで疑問に感じるね。オッカムの剃刀をよく養老先生は引き合いに出すのに、こういう逃げはちょっといただけないのでは。
読者としていうなら「老い先みじかい先生なのだから、とてもよくできた啓蒙書・入門書である『からだを読む』(ちくま新書)の続編を書き完成させてくれないかな」とだけ思ってます。