中公文庫08年8月刊 陳舜臣 ものがたり水滸伝

…わたしは今年の一月五日夕刻、二度目の脳内出血に見舞われた。十四年前は左側の基底部の出血であったが、このたびは右側であった。少量の出血ですんだものの、嚥下障害を起こしたため、しばらくは鼻から管を通して栄養を摂る状態が続いた。
現在はその管も取れ、新たにリハビリに取り組む日々を送っている。…
 08年7月20日 文庫版あとがきより

司馬遼太郎と同い年だったか。いや、司馬氏の先輩だったかな、大阪外語大での活躍などエッセイで読んだような。ま、大層な年齢での再発、お見舞いもうしあげます。北方謙三だと全19巻になる大菩薩峠みたいな巨巻が一冊で読めるのはお買い得です…というわけでわたしは水滸伝という物語の全貌は知らなかったです。読み終えた感想ですが「19分の1でよかったよかった」というくらいですかね。ストーリーを19倍する意味はほとんどなさそうね。
日本国でいえば源平の乱の時代だから、日中両国とも名もなき民草は塗炭の苦しみではあっただろうが、かの国ではちょっと生き難さも度外れですね。知恵や膂力のあるものは官吏になるか、運が悪ければ盗賊になるか、どちら側で生きるにしても荒んでないとやってゆけそうにない。ま、日本国でも南北朝だの戦国時代ってヤクザ者の仁義なき戦いが繰り広げられた時代だったわけで、そういうナニが政治とか行政とか治世とかだったわけでしょうが。庶民には生まれたくなかったですね、これ以前、三国志あたり黄巾の乱なんぞでも民草はバサバサ死んで、中国人のDNAが入れ替わったとかいいますよね。ま、日本でも縄文人弥生人とかの凄惨な交代劇はあったんでしょうがあれは原始人の話だしさ。
でも、中国人的ルーツというのかマインドというかすぐ調子に乗るとか度の越しやすさとかはよーく現れていて、小声で困ったものだと呟きました。梁山泊出陣あたりで読むのは止めました。まあ、呆れた物語世界で同調とかシンパシーとか感じなかったが、そりゃダイジェスト版のせいなのかな。
今月は「ものがたり史記」が出ているそうだが、司馬遼太郎の「劉邦項羽」読んでるし、まあ抜かしちゃいました。11月は「ものがたり唐代伝奇」だそうで、期待しちゃおうかな。作家の晩年の執念、みせてもらおうか。