光文社文庫 08年7月刊 北野勇作 レイコちゃんと蒲鉾工場 文庫書下ろし

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「ザリガニマン」以来の北野勇作体験ですが、ま、こんなものかなと。プロローグとエピローグの冗漫な独白は無視しましたが、もちろんそれでよかったのでしょう。
場末の映画館で往時の名作「2001年宇宙の旅」を見る話が出てくるが、全体があの映画へのオマージュなのか(クラークを偲ぶとかそういう感じで)それともバカにしているだけなのかモノリスを蒲鉾板に置き換えて(糸井重里モノリスを羊羹みたいといってた)“捻じ曲げられた進化”みたいなものいいを著者はしていたけれど、そんな思弁的な部分って無用だった。取替え可能な生としてわたしもあなたもいて適当にお喋りしたり偉そうにしたりってという主題と展開、そして危険な上司「豚盛係長」との漫才で楽しく読めたのだから。

ただ、ちょっとばかり気になるのは、その発見されたふたつの死体のこと。
あれはいったい誰なのか。
もっとはっきり言ってしまうと、もしかしたら、ぼくと豚盛係長の死体だったのではないのか、ということ。
そんな気がして仕方がなかったし、もちろんその可能性がなくもないのだが、あの事件の後でも僕は2階級特進したりせず平社員のままだし、豚盛係長にしてもやっぱり係長のままだ。だから、あのとき自分で気がつかないうちに自分がもう死んでしまった、とか、蒲鉾にかこうされてしまっている、というようなことはないだろう。
会社は、そういうことに関してだけはきちんとしているはずだから。
とりあえずは、そう思うことにした。
 第3話 夜食 終了部分

ま、なんにしても著者のドラマを作るうえでの才能のなさには呆れるしかなくて、もうほんの少しの読ませる工夫をなんてわたしがこんな場所でいってみても意味はないけれど。ぬるくて不定形が悪夢のゆらゆらを語りたいのはよーく分かるんだけれどどんと素材のまま(板付き蒲鉾のままみたいに)提出されて、それも細切れのセンテンスだもの読者を敵にまわしてどうする。
もうひとつ上の次元からの視点というか、ふやけてあやういそんな悪夢の運動律を解き明かすとか流れを作り出すとかそんな科学的な視点だなんて変な言い方だけれど、風景や心象だとかとの調和というのか─ハハ、サービスな部分も含めてドラマってものではないかな。
そうはいっても、こんなふうに悪夢や不条理を虚脱というか脱力的手腕でアモルファスに見せてくれる作家ってそうはいないのだから、ま、精進を期待してますけどね。