光文社文庫 08年2月刊 東直己 ライダー定食

ライダー定食 (光文社文庫)

ライダー定食 (光文社文庫)

表題作の食人小説、残念だがちっとも面白くない。照準がぼやけたまま終わってしまっている。恐怖小説になる要素と“嫌われっこ”が主人公の青春小説をわざと無骨にミングルさせ奇妙な味を出そうとしたのだろうが、肝心な定食の味わいを作者自身が分かっておらず冒頭のガイドブックの域を出ぬまま終了し奇妙さがまったくないという消化不足感がとても強く残る。だいたい、ライダーって人種は前頭葉も下半身もゆるく作られていて礼儀だの食い物の味なんて気にせぬ連中じゃないのか。ま、僕らにはΩがあるのだから何もいうことはないんだけれど。
とはいえ同人誌に発表されたという初期作品群はけっこう楽しい。クールな文体が魅力の冒険小説「ベレリヌム・ハペリタリア」。大勢の未熟なノンフィクションライターに「こう書くべし」と教えてあげたい。ニッカウヰスキーがある日突然届くエピソードは、なんとなく未開っぽくないがビューロクラシーみたいで樂しいしラストの14体のトカゲに食われた死体なんて謎がポンとおっこっちゃって終わる美しさも捨てがたい。
「炭素の記憶」も嫌いじゃないです。無駄な叙述も多いのだがぶっきらぼうなくどさっていう新しい作話法みたいなのが嬉しい。