集英社文庫 07.12月刊 桐野夏生 I'm sorry,mama. アイム ソーリー、ママ

I'm sorry, mama. (集英社文庫)

I'm sorry, mama. (集英社文庫)

「びっくり人間大集合!」みたいなでだしからの展開に驚き呆れ「どうしよう、怖いよお」って嬉しい期待感につつまれちまった読書体験の始まりだったのだけれど、中途(APAの社長みたいなおばさんが出た)以降、物語は悪い意味での「悪夢」みたいで収拾がどんどんつかなくなったみたい。仕方なしに主人公を脅迫的に隅田川で溺死させ無理やりの大団円みたいで拍子抜けな読書体験でした。
APAの女社長宅に取り入ったアイ子という設定は大正解なのだから、あのあと開店早々の新規ホテルでの恐るべきスラップスティックをみたかったなあと慨嘆しても始まらないけど。
《1》で焼き殺される福祉ババアと年の離れた元孤児の夫婦。《2》では養育家庭のなれの果てのジジイがリュウマチで寝たきりの古女房の衣装で女装ごっこ。そして《3》でようやくアイ子の心理が描かれ、《4》で彼女の壊れた神経があらわになる…んだが、それ以降が紙芝居か。アイ子の母が誰だって淫売屋の土地の権利がどうだって、読者にそれらの切迫は伝わらず呆気にとられたままの後半だった。

…モンスター・ペアレンツなら、身近にもいる。夜中にゴミを出す主婦、明け方に騒音を撒き散らすオバさんもまた私たちの隣人である。そういう連中に対しても、内心で「死ねばいい」と思っている。誰だって瞬間的に殺意を抱いたことくらいある。ただ、自分には守るべき家族や体面もあるから、殺意を抱いた瞬間に、鼻で笑い、寛容さを取り戻すのである。…
 「I'm sorry,mama. アイム ソーリー、ママ」解説 島田雅彦 より

たがの外れたこんな時代を、切り取る術だけ桐野夏生は巧みになって、もしかしたらそんな表層を描くことを義務感だと勘違いして、彼女は物語をおろそかにしてはいないか?そんなもの戸梶圭太に任せ、時代を捉えた重厚な小説を書いてほしいです。