高野秀行「アヘン王国潜入記」

今年3月の新刊。集英社文庫にて昨年3月、同じ著者による「ミャンマーの柳生一族」を購入した。現地での経験でこそ分かる文明史観とそれを確かめるための旅の顛末はそれなりに楽しいものだった。
こちらの本は船戸与一との旅行記である「…柳生一族」以前に出版されたもの。「…柳生一族」プロローグで、“かつてゲリラ支配地域でのルポを書いたので”といっているのはこの「…潜入記」のことのよう(2冊出版とか、英訳とか記されているので特定は出来ないが)です。
ほぼ逆説でしか通用しなくなった「探検」という言葉なのではあるけれど、だからといってワ州というなかなか外国人が入れない地域での生活探検ルポを「探検」ということにはダウトと苦虫噛んでいいそうになるよね。大変な場所に行ったこと、観察、ついでに麻薬体験までやっていただいたのだが、構成作家とカメラクルーとが一緒のルポだったらもっと正鵠を得た驚愕の潜入記になっていたのでは…って、まあなんともいえない。
本書全体のトーンなんだが“少数の(冒険)理解者”へのユーモアを含んだルポ・記録でしかなく、ここに書かれていない場所(ジャーナリスティックという意味じゃない。アカデミックな領域)にこそわたしの関心があったように思え、そういう意味では読む意味を中途で見失ったような気がした。
もちろん、冒険や探検という概念があきれ返るほど変わったこの時代だ。冒険家高野秀行のアプローチが間違ってはいないのだろうが、なんだか馳星周が小説のために歌舞伎町に潜入するほうが大冒険になる時代ってあたりを、わたし自身で咀嚼しきれていない部分もある。つまり、なんだか読者のほうが一段高所に初めからいて、それはもちろん読者の傲慢。
でもまあカバー表紙の罌粟の花。この濃い白はたしかに怖いな。