早川書房6月刊 スコット・ウエスターフェルド小林美幸=訳ベヒモスクラーケンと潜水艦

ベヒモス―クラーケンと潜水艦 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

ベヒモス―クラーケンと潜水艦 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

ジュブナイルリヴァイアサン」の続編。イスタンブールについた生物兵器飛行船“リヴァイアサン”から公子アレック一行は逃亡(伯爵は囚われる)し男装の士官候補生デブリは任務の途中で単身敵に追われる身となる。前作では2人の主人公が出会う物語だったけれど、こちらでは互いの利益のため別行動となるが結果的に2人と連合国の思惑が合致しトルコ反体制派とともに破壊活動を行い再び終結するというストーリー。デリンが下級士官という境遇のままなので、そこいらで縛られて、ストーリーがすてきに膨らまなかったのではないか。
SFっぽさはほとんど消え(「テスラ・キャノン」というレーザー武器とか「スポティスウッド型呼吸器」という爬虫類の皮膚みたいな潜水具とかSF用具はいろいろ出てくるけど)疑似第一次世界大戦とアタチュルク革命を美しく破天荒に少年戦記として語っている。現実のゲーベン追跡戦とかガリポリ上陸戦とか、あと汎トルコ主義の流れからのアルメニア人虐殺とかを知りつつ活劇として読むというのもいろいろ大変だけれどそれなり楽しい。
男装の士官候補生デリンなんだが、もうほとんどの人に女性だということがばれていて、それでいいんだろうかと疑問。新田たつおの「怪人アッカーマン」でヤマトのパロディがあり、森雪をヤマト乗員が集団で襲おうとしたら、アッカーマンにチンチン消去させられるっていうのがありました(つまらんものを憶えているなあ)が、リヴァイアサン乗員の士官候補生がばればれ美少女っていうのはもう第2巻で限界だね、そのへんは21世紀的な解釈など諸々がもう少しあってもよろしいかとも思いましたね。
サブタイトルの「クラーケン云々」に関して、訳者と早川編集部でいろいろもめたようであとがきなどにエキスキューズが記されている。ま、よく分からないですねそういうのって。