新潮文庫1月刊 蓮池薫 半島へ、ふたたび

半島へ、ふたたび (新潮文庫)

半島へ、ふたたび (新潮文庫)

相当の肩すかしを感じた読書体験。憤怒とかせめて憤慨やら憤懣やら、平静を装ってもどうしてもこみあげてくる怒りのような苦さのようなものが、前後編含めてほとんど見えない。冒頭に「背筋にヒヤリとしたものが走る」「おぞましい24年の歳月」「恐怖と絶望の色」というようなけっこう刺激的な用語が並んだせいで、反北プロパガンダがはじまるのかと思うとそういうわけではない。だが、だとするとこの先、蓮池さん、そういう“恐怖の体験”を語るべき時は現れるんだろうか、現体制が崩壊するまでそれは語れないのかもしれないのだろうなあ。
ぼくらは「イワン・デニーソビッチの一日」を以前から知っていて、だから突然収容所に放り込まれた蓮池夫妻の順応力や生活の知恵などがちらりと記されているあたり大きく頷くのだが、でも文章のそこここからもっともっとにがりが浸み出てこないものか、そういうふうにこちらが身構え読むものだから、余計苛立たしく感じちゃうのよね。憤懣を語ってよ、蓮池薫。誰もがそれを読みたがっているんだから。