角川ソフィア文庫12月刊 福井康雄監修 宇宙100の謎

宇宙100の謎 (角川ソフィア文庫)

宇宙100の謎 (角川ソフィア文庫)

本書は二〇〇八年十月、東京新聞出版局より刊行された『珍問 難問宇宙100の謎』を改題し、文庫化したものです。なお文庫化にあたり、回答の一部をあたらに加筆訂正をしました。

“回答の一部をあたらに加筆訂正をしました”って日本語ですか?ま、どうでもいいけどAmazonみるとカバーも単行本とおんなじという安普請。先月のチラシ紹介の際に『図解雑学〜』系というシベリアかアフリカ大陸みたいな広大な未開拓地を眼前にしたソフィア文庫エグゼクティブのような出版構図なんだろうけれど、だとすれば大量に流布する“図解雑学”を吟味・選択を期す21世紀の百科全書派くらいの(ギロチン覚悟の)矜持と行動力を持つべきだった。そういう意味でも今月購入の「宇宙100の謎」も期待外れだなあと。
どうでもいい愚問と、現代科学では回答不能なまあこちらも愚問か、そして大層な科学知識がないと背景さえわからない立花隆が挑むようなノーベル賞級最先端の難問とが順不同で混在しているんだけど、それら100門をインテグレートしようという編集意思はどこにもない。

謎85 ビッグバン以前の時間が虚数時間であるとはどういうことですか?

宇宙論の大きな問題の一つは「特異点問題」です。
多くの物理法則を表す式は、ある点からの距離を分母に含みます。宇宙の始まりにさかのぼると、距離はどんどん小さくなり、ついにゼロに近づきます。そのために、限りなく小さな距離で割り算することになり、物理量が無限大になってしまうという、自然界ではあってならないことが起きてしまうのです。これが「特異点問題」です。
時間を虚数にするのは、この困難を数学的に避ける巧妙なアイディアです。虚数によって、特異点の困難をうまく回避できたのです。ただし、そのような「虚の時間」にどのような物理的意味があるのか、解釈は問題です。
 回答者:福井康雄 

統一場理論とか、まあのわたしもよくわかりませんが、どうもこのあたりが啓蒙書の肝心のような気がするし…ってことはここを1ページでスラリ記述してはいけないでしょう。読者にいちばん頭を使ってもらいインフレーション宇宙とか加速膨張とか、無理やりでも入れ子にして詰めこまねばならぬでしょうに、そのへんのエレガントさと香具師的なペテン度が欠けたままの文庫化でした。加筆訂正してないんじゃないのかな。なんというのかな、中クラスの知識の人に、もう一歩ってのが啓蒙書の姿で、それってネットではなかなか痛し痒しの分野なのですよ、そこに一点ドリルを穿とうというソフィア文庫だとしたら、えらい教授にアメと鞭で楽をさせないことでしょ、すべての図解雑学のアウフヘーベンをきみたちの使命にすればいいと思うが。
謎82への回答で「宇宙は永遠に膨張する」という結論が記されていた。“2003年の宇宙背景放射観測衛星WMAPによって、この結論は得られました”だそうです。ホーキングとかかつて“宇宙はいずれ収縮しまたビッグバンで膨張…”の繰り返しと仮定していたけど、そうじゃなかったんだね。となると永劫回帰もあり得ないということになるのか、残念。神は死んだと言い放ったニーチェの死から100余年、2003年に「ニーチェは死んだ」というエポックがあったんだね、ポトリ。