文春文庫11年11月刊 椎名誠 ひとつ目女

]

ひとつ目女 (文春文庫)

ひとつ目女 (文春文庫)

砲艦銀鼠号、銀天公社の偽月と続く21世紀シーナワールドの新作。中国との戦争で、毒ガス攻撃にやられ中国の属国となったニッポンのトーキョーが舞台と、変なふうに具体的なあたりに好き嫌いが出るかな。オオテマチとかヒビヤとかその他の地名のせいでやっぱりわりといろいろ意識するよな。
戸山公園や墨田川沿岸に跋扈していたホームレス居住地。わたしがそれらを自分の目で見たのは90年代の後半か、足元が崩れるようなおぞましいショックは受けたが、反面「人生何とかなるかも」という安心みたいなものも感じはした。ヒビヤ公園の樹上小屋群などは、東京のスラムをもっと大胆にデフォルメさせたいという著者の願望があったのか。銀鼠号で登場した「つがね」という、まがまがしい人造(スクラップ)人間─魅力的な悪夢だ─の造形は、銀天公社で「人間社会に潜むことに成功した」ように描かれていて、だからまたこういう形での登場は、少々疲れるしワールドの年表や相関図など無意味なんだろう。
とはいえ「島田倉庫」冒頭作で非常に魅力的だったチョイ役「ひとつ目女(どさくさにまぎれて課長だったかに犯されたか)」が、ラクダの体内でどうしたこうしたを、こうして知りたかったとは思わない。もっと違った形で提出してほしかったような、もっと関連薄めてほしかったような…なかなか難しいな。繋がっているものとしてシーナワールドを探索しようとすれば個々の世界観の矛盾、関連性などを求めたくなり、かといってすべての作品を別個のものとして切り離して読ませようとしないのは著者だし。うーん、まあもう少し椎名誠に悪夢を定着させる技量があれば、すべて彼のSF的世界はもっと独立した一冊一冊として屹立できるのではとは思う。