角川ホラー文庫10月刊 国広正人 穴らしきものに入る

穴らしきものに入る (角川ホラー文庫)

穴らしきものに入る (角川ホラー文庫)

わたしの「発見!」角川文庫の本体は淡いピンク色だが、ホラー文庫は白地にでっかいエンブレムでした。
日本ホラー小説大賞に関しては以下に。国広正人の経歴などは記されていない。「1979年生まれ。滋賀県在住」とだけ。

http://www.kadokawa.co.jp/contest/horror/

受賞作以外の作品の初出などの情報もまったくないのは、すこし空しい。受賞作家の処女出版物なのにね。ホラーじゃないよね「赤子が一本」という短編以外は。思考実験というほどでもないSF作家の余技みたいな、ほんのちょっと状況を変えて周囲の驚きや驚かずみたいなものをコミカルに提出するみたいなね。でも今ひとつ芸になっているとは言いにくい。
読んでいてハラハラもないし爆笑もない。とはいえ選者には奇妙な小説として一本立ちしていると見えたのだろう。うーん、ちょっとギャップがあるな。表題作、オチもしっかりとしたものではなく、文章を読み進むのに違和感はないがそれ以上に興味をひかれる部分が無くはらはらのしようもない。
「赤子が一本」こちらは典型的なホラーで、嫌で嫌で近づきたくないのに、心の奥の無意識が不気味な自動販売機に惹かれてゆく過程が違和感なく描かれている。まあホラードラマの常とう手段ではあるが既視感をともなう恐怖感はどんどん利用すべき。小説通で主人公二人の言動を「夫と妻」と「男と女」といいかえるとか苛立ちやムズムズ感を体現さす技法などに感心した。まあオチはこんなものかな。これ以上怖いとわたしは読み進めなかったかもしれないしね。