文春文庫10月刊 逢坂剛 道連れ彦輔

道連れ彦輔 (文春文庫)

道連れ彦輔 (文春文庫)

解説 井家上隆幸
船戸与一(非合法員・山猫の夏)、志水辰夫(飢えて狼、背いて故郷)、北方謙三(眠りなき夜、檻)、逢坂剛カディスの赤い星)、大沢在昌(標的走路)…まだ無名といってよかった作家たちが競って秀作を世に問うた1980年代はまさに“冒険小説の時代”だった。
おなじころ、時代小説といえばいずれも故人である池波正太郎藤沢周平を指すかのような(略)ある種閉塞的風潮の中で…

もちろん解説者は「用心棒日月抄」とこちら「道連れ彦輔」とくらいは対比しているんだろうな、対比したうえでの物語的空間の優劣くらい提示してほしかった。どうして時代物でなければいけなかったのかを藤沢は忠臣蔵を日月抄のバックボーンに据え─もちろん擬似的ではあるが時代物の空気を読者に自然に与えてくれた。
貨幣価値などじつをいうとわたしにとっていつも気になっていた情報をこちらの小説では丁寧に扱ってくれた点など評価したい部分もあるが(だったら裏長屋の家賃とかも教えてほしかったが)とはいえ、全体として時代劇である必然をあまり感じなかった。禿鷹でいいじゃんというのは無謀だけれどね。仇討の無惨みたいなサブテーマももうひとつピンとこないで最後まで小説は盛り上がらない。とめという名の危険で悪辣な刀自を敵役にはじめから持ってきて封建の暗部を強調できればよかった。鞠婆なんていらなかったのでは。あとひとつ、勧進かなめっててれつくてん屯呑(どんな文字だったろう)by「宝引きの辰」泡坂妻夫と張ってるね。
上記解説中にシミタツの名もあるがあちらの時代劇もいらだたしいな、あれも日月抄に敗けてます。