購入したのは“知恵の森文庫”より春日武彦「心の闇に魔物は棲むか 異常犯罪の解剖学

心の闇に魔物は棲むか―異常犯罪の解剖学 (光文社知恵の森文庫)

心の闇に魔物は棲むか―異常犯罪の解剖学 (光文社知恵の森文庫)

知恵の森文庫のチラシがなくなったのは1年ほど前からか。駄目だな、チラシマニアのくせにそんな大切な知識がない。現在も古典新訳文庫のチラシは挿入されてるのは確かだけれど。本の虫という芋虫がいまして…って説明するのも気が重いので知恵の森文庫にかんするウンチクはなしね。
「心の闇に…」は前世紀96年大和書房刊だそうだが、時折ものすごい加筆部分があり

平成21年2月13日付の朝日新聞朝刊に<脅迫容疑で被告逮捕>という記事が載っている。その一部を引用してみよう。
自らが被告となった傷害事件の公判で事件の被害者に暴言を浴びせて脅したとして、東京地検は12日、住所不定、無職被告(43)を脅迫と証人威迫の疑いで逮捕した。この公判では…
 「心の闇に…」第2章110−111ページ」

大正時代の一家惨殺事件の調書が出てきたと思うと急に現在の事件まで振られてしまい読者もびっくりです。一昨年に上梓された「無意味なものと不気味なもの」というレビューというよりある種のカルテか、ヘンな本だったな。こちらの本の冒頭にも記しているが春日ドクターったら夢分析とかをばかにするわするわ。

精神科の外来では、夢のことを語りたがる人が時折いる。喋らずにはいられない人、精神科医にとってきっと参考になるだろうと考えて喋ってくれる人、関心を惹こうと半分は創作して喋る人などいろいろである。で、そうした夢の内容は無意識とか心の闇を反映しているだろうからと診察の參考にするかといえば、少なくともわたしはまったく参考にしない。そんな取り留めもない話なんかに付き合う気はない。
 無意味なものと不気味なもの 5.受話器を握る怪物 92ページ

そんな人の記すH・P・ラヴクラフトや内田百鐘??煦ォくはなくて、その本は今も座右の一冊ですが、こちらの本はどうだろうか。序章で自殺を救えなかった(当人は死ななかったらしいが)著者というエピソードを入れていて、ああ、それが臨床なんだなと、不思議な納得のある啓蒙書でした。春日ドクターの結論は「分裂症より反社会性パーソナル(人格)障害のほうが怖い」というあたりで、そのへんは納得。人格障害者の特徴として“奥行きの欠如”をあげ具体的にその違和感を表現しているあたりがまあ、読書の収穫ですか。とはいえ元産科医である著者が臨月妊婦腹裂き事件についてあとがき出まで言及し、そのみずからの執拗さを「わたしの精神の卑しさ」といってしまうあたりが変に怖かったりして。