集英社文庫 09年1月刊 井上夢人 the TEAM ザ・チーム

the TEAM ザ・チーム (集英社文庫)

the TEAM ザ・チーム (集英社文庫)

短篇集だから読めた、旧世代の香り高いクライムノベル。レベルはTV「スパイ大作戦」ととんとんくらいか。あちらはわたしが中学1年のころでなおかつ毎週1時間ドラマでほぼ飽きさせないレベルを保っていたわけで、きっとそれはすごいライターたちが集っていたのでしょう。もちろん、独裁者とか東側とか紋切り型の悪が用意されやすかった時代だったわけで、むだに小悪党や間抜けな連中を創作しなくてはいけない井上夢人さんの努力はたいそうすごいとは思うけどね。
ミステリルネサンスを経験したわたしたち、「黄金を抱いて跳べ」とか「リヴィエラを撃て」とかなにしろすごい筆圧、重く鈍いが淡々と不屈に無愛想に進むストーリー、アクションに同時進行でスクラム組んで読み進むことを強いられたせいで、不思議なことにこういう読みやすさをバカにするようになっちゃいましたね。こうなるとルネサンスがよかったんだか悪かったんだか。
「悪党パーカー」みたいにもうひとつこのチームの悪さを際立たす努力がほしかった。テレビで評判を取り、間抜けな金持ちから小金を巻き上げる悪辣なシーンがやっぱりほしかった。そちらがカタルシスとして上質なのではと、これはルネサンスとは関係なくわたしのひねくれた読者気質のせいか。鬼平が偉い人からわいろをもらうシーンなんて、当時の時代性を読み込めていっそ素敵ですよね。