角川文庫08年1月刊 菊池秀行 逢魔が源内

逢魔が源内 (角川文庫)

逢魔が源内 (角川文庫)

けっこう楽しい読書体験だったけれど、なかなか仕組みが難しくて読み込むまで時間がかかった。主人公の源内が二重人格というのか超人の表裏の相貌が入れ替わるという小説の骨子を理解できず、ちょっと怪訝だった。表の源内は衒学博識で怖いものしらずの皮肉屋だがそんな彼でも裏の己を制御できないという矛盾を楽しめるようになったのはようやく3編目の「蔵の箱」読み終えた頃でした。そんな鬼謀な裏源内でも西洋の魔神に囚われ死にかけたところを美人の幽霊に助けられるとか、それでようやく物語がみえてきた。
その美人の幽霊っていうのも、またわかりにくいんだよね。どうして貧乏同心の妻が幽霊でいるのかっていうインフォメーションはどこにもないんだよね、ま、菊池秀行のよき読者ならそのへんの機微(メフィストシリーズとかで)は理解してるんでしょうが。玄白とか良沢とか、田沼意次とか出てくれば時代物になるわけではなく、近世がほとんど描かれないあたりを了とするか難しい。いっそ江戸中期を近未来と見るというような視点から読むことがよい読書体験だったりして。でもぼくしんぐという南蛮渡来の武術で敵を倒すハードボイルドな源内みたいな世界はとても好きだけど。
第1話の小野小町っていうのはちょっとでも、虚構として脆弱ではないのかい。藤原紀香とかのスケジュール帳に数日の空白があったなんていう、舞台裏みたいなほうが…そういう作家じゃないのか。カバーの天野喜孝、購入時には洒落が過ぎるかと見えたが、いやいや小説と伍して伝奇でよろしいと思います。