新潮文庫 08年5月刊  佐藤友哉 子供たち怒る怒る怒る

子供たち怒る怒る怒る (新潮文庫)

子供たち怒る怒る怒る (新潮文庫)

どうも、なんだが、僕ら21世紀に生きる人たちはバラードの「クラッシュ」を(実は30年前に)手に入れてしまったので─なぜ30年も翻訳してくれなかったのか残念でならないのだが─佐藤友哉からそれほどの衝撃を手に入れられない。不思議なもので舞城や町田や中原を読んだのがバラード以前でしたので、読んだ当時はスリリングな知的好奇心をもらいました。やばいっすね、「死体と、」なんて自分がもっと若さというか幼かったら、戦慄したかもしれないのだが。
アレゴリーとしての機能なんかも読者が忖度してあげるみたいな読書体験は好きでないな。
表題作の「子供たち…」読み終えてここには大勢のいろんな小説・戯曲たちへのアンサーソングなのですね、勉強してますねと、小さく微笑み首を傾げるだけ。なにが足りないのかな、憎悪?嫌悪?悪への希求か。

「ドクター・レミントン?」考えるより先にわたしは呼びかけていた。
わたしの前まで来ると、正面から殴りつけようとするかのように松葉杖を握りなおした。わざとらしく首をまわし、傷をじっくりとこちらに見せた。戸口で立ち止まり、わたしが道をゆずるのを待った。わたしは傷跡を、右目から上唇まで伸びる長さ八センチの透明ジッパーが残していった傷跡を見下ろした。鼻唇溝と交差すると、まるで繊細でとらえがたい手の掌紋のようだった…。
  クラッシュ 52ページより

死であり暴力であり理不尽であり、だから危険だけど楽しい残酷といった激しい小説っていうジャンルの喜びを僕らは佐藤友哉からは見出せない。置かれた教師の生首の虚ろな眼窩に挿入させて小学生がオナニーなんて、アハハ、こいつ全然わかってなさそうとわたしは首を傾げるしかない。もっと観客を意識したホラー映画の原作をめざすことで資本主義という傲岸不遜な悪を垣間見れたのではないかと、自動車事故ホラーポルノ小説に戦慄したわたしは、少しだるいぞ。
「大洪水の小さな家」椎名誠の「…島田倉庫」くらいな厳しく押さえた文体がもすこしほしかった。でも、ここにはなんだか可能性がありそうなんだが、よくわからないな、自己満足に陥らず、大衆作家として自らを確立させられないかな。