ポプラ文庫08年4月刊 松井今朝子 今朝子の晩ごはん

今朝子の晩ごはん (ポプラ文庫)

今朝子の晩ごはん (ポプラ文庫)

安倍晋三の「美しい国」が大嫌いと記していた著者、7月の参院選のあとの記述が早く読みたいものです…って、あれ?これってホームページの日記だったよね、じゃあ読めるわけか。

http://www.kesako.jp/

ははぁ、ホームページ、トップがこちらの連載なのね。わかりやすくてよろしい。参院選の記述は見つからず直木賞関連で満載でした。ブックマークしとこう。
毎日のダイアリーで、それも昨年の同期だから読むほうもわりと納得だったりする。政治や社会もそうだが、天候とかもね。新潟も昨年の冬は2月までぬるくて暖か。どうなることかと思っていたら3月から底冷えが続いたのを思い出しもした。今年はまた表裏日本で天候がさっぱり違うみたいだけどね。昨年同期に「そうだ、創元文庫から中村雅楽全集が出たんだったな、きれいなカバーだったな」なんて日記を見て感慨したりね。
稿料など発生しない日記がこうして本になる。もちろん加筆はしたのだろうが劇評も力を込めているのが分かり好感です。経歴から演劇・歌舞伎関係で仕事してきた人だとはわかるから芝居に関しては筆も走るんでしょうけど。演劇関係も含め著者に関してはまったくの無知。直木賞作品も読んでいません。受賞前後のあわただしさをどうまとめるのか、できれば安倍内閣沈没も同じ時系列で語ってほしい。あとがきに「…どんな騒動に巻き込まれるか、乞うご期待(苦笑)!」と締められていました。期待しよう。
晩ごはんに関しては、まあとくに熱心に読みもしなかった。恵方巻きがまずかったという記述くらいしか頭に残ってない。

2月3日恵方巻き、焼き野菜のサラダ
渋谷に用事があって出かけ、帰りに東横のれん街を通り、ちょうどお寿司が食べたかったし、モノは試しだと思ってお馴染みの店で初めて、恵方巻きを買ったが、あきらかに「25日のクリスマスケーキ状態」で堅くなっててムチャクチャまずい!やっぱりこういうものには手を出しちゃイカンのだと深く反省した次第です。
節分に恵方巻きを食べる習慣は関西発だというが、それは大阪のごく一部の話であって、京都にいたころは聞いたこともありませんでした。数年前から東京で流行りだし、今年はもうコレを食べなきゃ日本人じゃない!みたいな感じでどこもかしこも売ってる。いくら経済の活性化につながるとはいえ、こんなふうに食文化をメタメタにしちゃっていいんだろうか。大量に作られて結局は捨てられる食品の多さを想うと、その冥加の悪さが空恐ろしくなってしまう。…後略

時代物の作者、いいですね、「冥加が悪い」なんてフレーズ使わせていただこう。わたしが恵方巻きを知ったのは小林信彦の唐獅子シリーズで、30年も昔のことだが読んだだけではどんな風景なのか理解できないがでもおかしかった。新潟でも徐々に認知されてたしかに去年今年はジャスコでも予約販売してました。とはいえ、まだ流行していないものもあり新潟ではイワシの頭と柊と枝豆を家の外に括りつけておく習慣はまだないです。在京時代も気付いてはいたがどこで売ってるのか気にもしなかった。魚屋で売ってたのかな…あれもじき流行するかしら。
ほんの1日分の記述だけれど著者の師である武智鉄二のひととなりなどすらりと記していて「黒い雪」のスチル写真であれほど興奮しただけのわたし(若松孝二の「金瓶梅」や羽仁進の「初恋地獄編」のポスターでも…なんにでも興奮してた)だけれど「…武智先生ほどおかしな人を私は後にも先にも見たことがなくて、以来どんな方にお会いしても別にフツーの人に見えてしまうのである」とまで記した著者だもの、もすこしいろいろ知りたいですね。
京都祇園の生まれである著者、実家(料理屋)でのちょっとふつうと違う家族のあり方だったみたいな書き方をしていた。ま、おかしいんでしょうね。取材旅行で帰省しても自宅に泊らないとか逆に素敵だと思った。イノダコーヒー店(コーヒが正しいらしい)という固有名詞がひとことでて来て「そうか、大高郁子さんもここが好きだっていってたな」と思ったり。京都の観光地化に関しても面白い記述がありましたよ。

4月14日 キャベツとツナ缶の酒蒸し、お粥
前略…
京都はいまや街全体が巨大テーマパークと化しているが、たまに雑誌の京都特集などを見ると、あらゆる職種の店舗に相当数のニセモンが氾濫しているようで、ええっ、こんな店あったっけ?というような店がいきなり創業ン百年だったりするのがおかしい(笑)。家としては古くからあってもその商売を始めたのはほんの最近という店でも創業ン百年を名乗ったもんがちみたいで、そういうことに全然チェックがいれられないくらいいまどきは不見識な出版社も多いという事実を皆様よくご承知の上で京都旅行をなさったほうがいいと思います。

ま、つまり作家のホームページっていうのもバカにしちゃいけない、こんなにサービス精神で高カロリーな方が(他にもけっこう)おられるのでしょうという意味で、とても楽しかった一冊でした。ポプラ文庫創刊の劈頭を飾ったという歴史的な快挙を傍でにこにこ眺めております。