新潮文庫08年3月刊 川上弘美 古道具中野商店

古道具 中野商店 (新潮文庫)

古道具 中野商店 (新潮文庫)

最終章が不要というのか、中野商店が今風のアンティーク商店になるのはいいけれど、主人公のヒトミさんがタケオと職場で不思議に再会してなんだかハッピーエンドで終わるのは「らしくない」わけじゃないが蛇足みたいだ。新装開店で招かれ出会い、過去を振り返りつつなんだかいい感じくらいのほうが純文学っぽくはなかったか。
高校時代の同級生からのいじめのせいで、タケオの小指がちぎれたことの落とし前がついてないようで、作者は何とかしてあげないのかな…まあいいか、小説としてはどうでもいいのか、若い二人とも簿記やコンピュータの専門学校で頑張ってきたのだし。
中野さんも姉のマサヨさんも、刺されたりオトコが死んだりでけっこう大変な人生なのだがまあわりと洒脱というか余裕というか、近い年齢のわたしなのにタケオやヒトミといっしょに眉をひそめたり呆れたりという気持ちだ。

なんかな。わたし、生まれかわっても、中野さんにはなりたくない。そういうと、タケオはクスクス笑った。
中野さんには生まれかわれないでしょ。
まあそうだけど。
サキコさんて、でも、なんかおれ、嫌いじゃないす。タケオは言った。
わたしも、サキコさんは嫌いではなかった。むろん中野さんのことも嫌いではない。嫌いではない人は世の中にたくさんいて、その中でも「好き」に近い「嫌いではない」人が世の中にたくさんいて、反対に「嫌い」に近い「嫌いではない人」もいくたりかいて、それではほんとうにわたしが好きな人はどのくらいいるのだろう、と思いながら、わたしはタケオの手を少し握った。タケオはぽかんとしていた。
 「ペーパーナイフ」よりお終いに近い部分

なんとなこの小説のフリーハンドっぽさがすてきで、でも書き出しの「角型2号」で中野さんの姉サキコさんの恋愛をいれちゃったせいで全体の構図がひとつちいさなレクタングルに完成しちゃったのではないか。そこからの逸脱さす過程がわりに楽しかった。