ハヤカワ文庫1月刊 戸梶圭太 さくらインテリーズ

さくらインテリーズ (ハヤカワ文庫 JA ト 6-1)

さくらインテリーズ (ハヤカワ文庫 JA ト 6-1)

先日、当ブログで《I'm soryy mama》の感想記したさいに「もうこのさい、たがの外れたこんな世相の描写なんか戸梶圭太にまかせて、桐野夏生には現代社会の病理そのものに食い込んで…」と書きました。まあもちろんこれからも桐野女史が戸梶に挑戦し続けてくれてもいっこうにさしつかえはないですけど。
いやあ、でもこれおもしれえな。「…サクタロウ」ではじめて知った作者だったけど、まあコンスタントにこれくらいのを発表できる力量があるってのは立派なものです。文庫が出るたび今後は要注目でしょう─と、思ったらけっこう文庫が出てるみたいだ。

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/%8C%CB%8A%81%8C%5C%91%BE/list.html

以下は公式ホームページ。まあ自作の音楽や映像や、マルチでチープでハイテンションな作家らしい、多いにその意は伝わるがほとんど見どころのない自己満足的なホームページですかね。も少し、読者と対峙しているという雰囲気がほしい。でもそれって作品自体にもいえることかも。

http://www.tokajungle.com/

作者にとって、ホームレスだのいじめだのこの手のストーリーだと、場末のソフトクリームマシンみたいに泡吹くように湧いてくるんだろうし、そんなポストバブルなあきれた風俗模様を少々危ないソープオペラの安っぽさで読ませる物語構成力が著者の魅力です。倫理コードをハッスル一番その踏みつけ度合いが小気味いい。いいんだけどやっぱり求心力が続かぬ“フォルム系”の作家でしょみたいだから「…サクタロウ」よりこちらみたいに主人公(視点)が入れ替わるほうが破綻や類型化を防げ、最後まで面白く読める。
この文庫、帯がすてき。ゴシック詰め過ぎみたいなこんなフォントいいですね。でも本編中の太文字はちょっと読みにくいんだな。推敲の余地はあるし、変身するにはそのへんトリビアに心血注ぐことでいい結果が出るのでは。今後とも楽しみにしていきたい作家です。