角川文庫10月刊 法月綸太郎 生首に聞いてみろ─ネタバレレビュー

生首に聞いてみろ (角川文庫 の 6-2)

生首に聞いてみろ (角川文庫 の 6-2)

感心しません。ほんとにこれが「このミス」1位なのか。

http://dvd.or.tv/Bookstore_Konomisu.html

そうね、1位のようです。今月の角川文庫で「THE WRONG GODDBYE ロング・グッドバイ」を購入しました。4位だそうです。わたしの中ではぜひ逆転して欲しいがまあそれはともかく…。
メインのトリックは犯人=被害者の入れ替わりなのだが「キドリントンから消えた娘」みたいなキレや驚きはない。

前略…
「16年前の事件では、伊作さんも各務夫妻の共犯だったんですか」
田代が驚きを隠せない声で言った。綸太郎はむっつりうなづいて、
「前後の状況を考えると、そう結論するしかない。伊作氏が犯行に加担していなければ、姉妹の入れ替わりが成功するはずがないからだ。…(略)」
…後略
 文庫版 チャプター32 505ページ

これってひどくありませんか?ひどくないのかな。でもって、各務夫妻の罪を告発する意味で新たな彫刻を作ったなんて、死ぬまでおめえはそうやって現実から逃げてってことか─やっぱり変だよ。
分倍河原のマンションでの法月父子と歯科医各務の母=妻とが対峙する場面、あそこ「ウィチャリー家の女」じゃないですか、最高にスリリングなシーン。いやあ、各務の闖入でネタが割れたとき、けっこうぞっとしたものですよ。それなのに結末まできてみればとても色褪せ「なんてこった、あのとき興奮しちゃった自分がみじめ」って不快な気分に陥る。
新本格派ではこういうものなのかもしれないのだが、愛娘カッコ20歳の裸身を石膏で直に型取りするガンに冒された(復讐に燃えてるらしい)老父なんて、まあエロティックかつ凄みのあるシーンじゃないですか。下腹部とか内股あたりとかまあその他いろいろ。そこんとこ描きたくないのかなって、作家の資質まで疑っちゃうぜ。
首をちょん切って宅急便で送るっていう血なまぐさい作業にかんしても、そのおどろおどろしさをほとんど作品では語っていない。もちろん「占星術殺人事件」「殺人方程式」など新本格派ではバラバラ死体をツールとして利用しているわけで、それを咎めるのはおかどちがいなんだろうけれど。
まあ弛緩したストーリー運びなど、クイーンを意識しているといわれても、現在の読者にとっては入りにくいなあというのが実感だった。