小川一水 時砂の王 購入

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)

史実としてちょっとあいまいな卑弥呼を主人公とするよりもヤマトタケルと弟橘姫の物語にしたほうが座りはよかったんじゃないかな、海水が“物の怪”の弱点だって言うあたりとかも加味してさ。
卑弥呼がいたあたりの年表などWEB上にありましたのでどうぞご覧下さい。はて、年表見ておもうのは、こりゃ卑弥呼ではなくて神功皇后のお話にしたほうがもっとよかったかということ。女丈夫ってことでいえばね。すると王は武内宿禰か。

http://www2u.biglobe.ne.jp/~dnak/sangoku/wa.htm

タイムパトロールSFとしての出来は、まあなんともいえないけれどゲームやら映像化らやまで考慮に入れれば、ストーリー性にかんしては悪くはないか。とはいえ400枚に満たない作品なので戦闘シーンなど梗概の域を出ていない。もう一人の主人公オーヴィルの軌跡もたどらなくてはならないので、どうしても枚数不足だ。“物の怪”にかんしても「スターシップ・トゥルーパー」の昆虫みたいかなと勝手にこちらで補則して読む。その辺も小説として準備不足、フラストレーションが残る。
本の時間SFでは「果てしなき流れの果に」がまあ、40年昔から「ワイドスクリーン・バロック」やってるんですが、小川一水ったらちっとも敷衍してないね─まあいいけどすこし残念。
とはいえ唐突だったが胸に迫る“感動のラスト”をきちんと準備していただきとてもありがとうございます。でもねこれじゃ小説として相当物足りない。─フラットなんだよな。銭湯の書き割りペンキ画程度でしかないので「ナウシカ」の深さまでも届いていない。ジェンダーフリーとはいえ巫女に戦をさせてどうするんだってことかな。
読み終えたうえで記しておきたいこと。「伝道の書に捧げる薔薇」ロジャー・ゼラズニイなんだが、ハヤカワったら絶版みたいだ。現物がないので記憶で記すしかないが、劈頭の短編がとてもすてきな「12月の鍵」。ハヤカワSFブックスの「ニュー・ワールズ傑作選」のほうで、わたしは先に読んだ─あれも素晴らしいアンソロジーでしたね。
行き場のなくなったある種の改造ネコ人間の集団が─いやいや、合法的なんだよ。まあそういう思弁的産物のネコ人間なんで─賠償金で購入した惑星を、自らのユートピアとして作り変えようとして、中途1匹のネコ人間が、その惑星で進化しかけていた知的生物とともに滅びの道を選ぶみたいな(30年前に読んだ作品なので自信がない)とても悲しいが美しい(《愛は惜しみなく奪う》みたいな)余韻に酔った短編だった。もちろんテーマも時間軸のベクトルも「時砂の王」とは違う、短い一本の線を扱った短編でしかない「12月の鍵」なのだけれど、彼の作品の余韻や奥深さを小川一水に分け与えたくて仕方ない。名作にはならなかったが作者にとってはエポックな作品となるかもしれない。