志水辰夫 きみ去りしのち  07年8月購入

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過去に読んだことあったかどうかを書店でめくっていても思い出さなかった。─それどころか第1話「きみ去りしのち」を読み終えてなお「どうも未読のようだな」と考えていました。ハハ、最終話「煙が目にしみる」の後半まで読んでてようやく、ああ知ってる、昔読んだと確信できました…いかんぞこれでは。
現在の志水辰夫リバイバルブームを作ったのは新潮文庫であっても、そのブームを消すのもやっぱり文庫だったりする─って、わたしの感想だけでいっちゃいけないな。
もちろん「帰りなん、いざ」「いまひとたびの」に痺れた当時のわたしは、現実にいるわけだけど、実は当時だって上海・渤海ものや「オンリィ・イエスタデイ」、ほらほら「滅びし者へ」とか、ひどい作品もあったぜとそういう口をきく。
この小説集、言葉が多いですね。“無駄な叙述”とはいいたくないけど、物語をつむぐために費やす努力がちょっと痛々しい。揺れている物語の主人公の心理を充分に補完補足しようとデティール書き込んでる著者の努力が分かってなお、物語にのめりこめない。
分からぬもの不可知なものをそのとおりにぶっきらぼうに描いた作品群に、だからわたしはここ10数年で惹かれていったといえば、あまりに著者に失礼か。でも「行きずりの街」でのご都合主義(塾の教え子の失踪と主人公のかつての職場との関係とか)が実はあの小説の最高の魅力だという逆説が著者に伝わればよかったのにねと、結果的に彼の失敗作などこうして偶然10数年後に読み返してみて、苦笑するしかない。
小学生が主人公の表題作、参っちゃうよな。世の中ったらこんなに不気味にサクタロウだぜ。