リリー・フランキー Lily Franky ボロボロになった人へ

ボロボロになった人へ (幻冬舎文庫)

ボロボロになった人へ (幻冬舎文庫)

短編集のタイトルとして、これは失敗ではと読み出してからの感想。まさか“人生の応援歌”なんぞを吹くような作者だと邪推したわけではないのだけれど、そんな作品と間違う人はいないでもないよ。とはいえ表題作はすてきな作品。
巻末に置かれた表題作の掌編(文庫で5ページ)は、本当に(比喩やアレゴリーではなく)ぼろぼろになっちゃったフィーゴという名の主人公がぼろぼろのままで善行も悪行もないまま生き続けると、彼の爪の未来を語ったところで唐突に終わる反=希望的小説なのだが、でもまあ、突き抜けちゃってとぼけた読後感はとてもいい。─うーむ、やっぱりこれを短編集のタイトルにして正解かな。

…(前略、略した部分もたのしいぞ)…
もちろん、、全員がホモだ。何日も餌を与えられてない血走ったホモさ。彼は一斉に犯された。アナル、口、耳や瞳は鋏で切られて穴を広げられた。中には完全なサイコ野郎もいてね、カミソリで金玉の袋に切れ目を入れて玉を吸出し、口のなかで何度も噛み潰して楽しんでやがった。そして、そのぐちゃぐちゃになった玉をまた、口移しで袋の中に戻し、切り口をかんぴょうで器用に結ぶんだ。もちきんちゃくみたいにね…。(リーダーはママ。行替え後も拷問は続くがリオのカーニバルホモの蛮行は著者も口を噤む…後略…)

「死刑」という短編より。犯罪者はすべて死刑になるという近未来では、処刑の残虐の度合いを検事と弁護士が争うらしい。敏腕弁護士の伊東が処刑間近の青年に、過去の凄惨な処刑風景を語る楽しいシーンだが、ああ、これが“おでんくん”出現シーンだと思えてわけもなく嬉しい。