梨木香歩 村田エフェンディ滞土録

村田エフェンディ滞土録 (角川文庫)

村田エフェンディ滞土録 (角川文庫)

「家守綺譚」の綿貫の家が、最後に出てくる。綿貫より先に主人公の村田を迎えたのは死者である高堂。村田がトルコから持ち帰ったサラマンドラを死者は持ち帰り、神々のにらみ合いも終了する。
それら神々の集合離散の部分と、あとトルコ女性ハミエットの予言あたりはどうもわたしには眉唾で困ってしまう。鸚鵡もちょっと擬人化されすぎ。つまりはこういう物語のアトモスフィアを味わうファンタスティックな心情を持ち合わせていない(擦り切れちゃった)。
とはいえ、スタンブールでの村田の暮らしや交友、トルコの国柄などのパートは楽しく読めたしいくつか当時っぽい気分も味わえた。ああ、そうかトルコは同盟側だったんだね。ガリポリ戦役についてはウィキで。帝制末期のトルコの国情、革命前夜にしてはわりとのんびりの女性軍だったりして、もしかすると物語上では平板に見えてる彼の国の風情がけっこうそのとおりだったりして。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%83%AA%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%81%AE%E6%88%A6%E3%81%84

トルコでの村田の暮らしや研究振りはまったくのフィクションではなく、そういう立場にいた研究者の手記が元になっているのだろう。最初の数行くらい擬古文でも面白かったのでは。
著者の思惑より、作中の大勢の登場人物たちは歴史の証人として活躍したかったのではないかと、すこし不満は残るが、この長さの作品では多くは望めぬか。