グレナディン・シロップ

ざくろシロップ。カクテルの着色料。ちょっと昔みのもんたの番組で、ざくろジュースは健康飲料(女性ホルモンが豊富で更年期によいとか)と教わったような。ざくろシロップから広がるアネクドートを教えてくれたのは山口瞳だった。
世相講談ではなかったような、“男性自身”中の1話だったか“酒呑みの自己弁護”だっけか。えぇと…要約するとですねえ─キャッチバーというのか、現代用語では“ぼったくりバー”か。そういうお店に引っかかった(かにみえた)中年客。慌てず騒がずホステスたちの応ずるままカクテルやおつまみを注文し楽しい時を過ごしている。法外な請求にも顔色変えずにっこり応じ支払いの後で、息を潜めじっと見守っていたホステスたちに「みなでこれから食事でもいかないか」と声を掛けたそうです。
応ずる全員を引き連れホテルのラウンジでフランス料理、バーで歓談。買い物の後で彼女らに一部屋ずつをあてがい、また翌夕は彼女らとともに店へ出向き、同じような饗応を受け、再び破格な請求書にびくともせず、にっこり笑って去っていった─という顛末を元ホステスから山口瞳が聞いたというようなストーリー。
それきり姿を見せぬ中年客を「銀行強盗か、横領犯か」といぶかしがる話し手に対し、善良たらんと欲したきり鬱屈したままのサラリーマン生活を送ったらしい著者は「それは中年サラリーマンのあらまほしきお金の使い方のような気がする」なんて、氏の小さい願望を込めて締めくくっていた。

シロップが出ないね

キャッチバーで女給さんたちがカクテルをおねだりするとシロップの水割りが運ばれてくるそうだ(酔っちゃ仕事にならないから)そのシロップを数杯呑めば口中に甘ったるさがコーティングされるというような按配。不思議な客からぼったくろうと無理にお代わりするうち、不快な気分になってきたというような小道具。
「キャッチバーのホステスなんて最低な仕事だけれど、でもそんな仕事に就いてはいてもお鳥目を頂戴するということは並大抵じゃない…」みたいに書かれた。
カキ氷に掛けるシロップみたいなもんだと、さらりと記していた山口瞳だったので、読んだこちらは明治屋のシロップのあれをグレナディン…というのかと独り決めしてしまい、いま考えるとどこかの誰かに知ったかぶりして(すいません、短研のみなさん)変な知識を広めたような気がしてますが、まあいいさ。