新宿鮫10 暗約領域読了

有難いことにこのたびのシリーズ、奥泉光クワコーシリーズ同様10年のブランク無しの「絆回廊」からしばらく経ち管理職(所轄の課長代理)として勤務にいそしむ鮫島から小説は始まる。プロローグで『平成29年に公布された「住宅宿泊事業法」により、民朴業者に対する届出等が義務付けられた…』なんて記述があるので、ゆるキャラの中の人になっちゃったクワコーと同じく普通に現代を生きてる鮫島のようだからそれはそれでわたしは納得しました。

(以下ネタばれ)

とはいえ「宝探しの答え」がタミフルって少し違和感。イナビル・リレンザ・ゾフルーザがいまの常識じゃないの?記述内に“現在では過剰生産でだぶつき気味で…”とか記されてればいいのだがたぶんなかったはず。フッ化水素とかだとものすごくタイムリーだったかもしれぬが、でもそこまで同時代性に拘ってもねとも思う。

(ネタバレ終了…だがミステリの書評だものネタバレ必至か)

すこし鮫島の“伊達邦彦”化が顕著でそれは「絆回廊」がもう充分そうだったわけで、食傷は否めない。インテリやくざとの絡みはもう悪臭ふんぷんです、このへんは「暴力団に厳しい鮫島」という設定を課した作者に初心を忘れずにといいたい。

…前略…「あなたの信念の強さは、わたしの知っているいかなる人とも違う。あなたは、あなただけの倫理に従っているように思える。その倫理がまちがっているというつもりはないけれど、あなたは退くことがない」

「退けない、と思っているのです。退いたとたん、今まで私に煮え湯を飲まされたと思っている連中が襲いかかってくる。…」…後略…(41,443p)

 

作者も分かっているのだが結果的に11作目となると「この印籠が目に入らぬか!」になっちゃうわけで、となるとミステリってのはシリーズである必然があるのかなって分からなくなります。

このたびの「暗約領域」に関してですが、ラストはひどいな。あと50ページ水増しでいいから出来のいいアクションシーンの連続で閉めてほしかった。古書店主と香田と3人での人質奪還シーンはいい出来なだけに、殺し屋含めてなんだか大勢でピクニックみたいに焼肉屋に行き人殺しし、みなで古書店に行きワイワイガヤガヤラストの銃撃戦までが不出来な書き割りっぽくて興醒めでした、ラスト大団円なんだも少しきちんと着地してほしかったな。もし新宿鮫が続くのなら阿坂課長も矢島刑事も残ってほしいです、マルティン・ベックシリーズにベニー・スカッケやレア・ニールセンが加わったようなような雰囲気がほしいな。

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タミフル・効きました