文藝春秋09年5月刊 中村文則 世界の果て

世界の果て

世界の果て

レビューを書くのがとんと遅れました。遅れている小説は幾つもあって「何か書きたい気分に溢れて…」はいるんだが、どうにも手も足も出ないという奴ばかり。書こうとすると自分のいやな部分(それが惹かれる部分なので)に踏み込まないといけないのでね。

「見てください、空が綺麗ですよ。青空です。戦争日和ですね。戦闘機の視界も、開けます。ほら、見てください。さあ、早く」
男は僕の肩を抱き、窓際まで連れて行った。空は高くどこまでも澄んで、青かった。まるで僕を蔑むように、自らの美しさを自慢するように、あまりにも巨大な姿で、僕を見下ろした。
 戦争日和 最後の数行

アレゴリーって、どうも高齢になった私にはすこしうっとうしくて厄介者に見えてきて、安部公房がわりと文学史から早々に忘れ去られた理由もそのへんにあるのかと(違うか)、でもこの短編みたいにこんなふうにあっけらかんと主人公が平気で嫌われたりするのをみると寓意も何も、消えてしまって悪夢を楽しむ余裕ですらりと読めた。
その他の短編も、わりとあっけらかんと自殺したり人殺したりと、たがの外れた現代をきちんと掬い取れていて、でもフェミニンだったり理由もなく元気だったりではまったくなく、きちんとした文学になっていて好もしい。
後書は蛇足に思えたな。